STORY | あらすじと、各話紹介

第7話 新芽

私のせいだ。 共に戦う者を傷つけてしまった。 戦って勝ち続けているうちに、○○してしまったのだろうか。 今の自分のままで良いのだと思い込んでいた……。 ……ひなたが言っていた。 そもそも世界がこんな事態に陥ってしまったのは、人類の○○が原因だと。 神樹様がそう告げている、と。 私もその一人だと、いうことなのか……? 二〇一九年一月 乃木若葉記


 目を開けると、視界に白い天井が広がっていた。
 若葉は一瞬自分がどこにいるのか分からなくなった。
 周囲を見回し、「ああ、ここは病院だった」と思い出す。
「目が覚めましたか、若葉ちゃん」
 若葉が横たわっているベッドの隣に、ひなたが座っていた。
 過去最大規模のバーテックスの侵攻の後、勇者たちは治療と身体検査のために入院することとなった。若葉も含めて全員が戦いで傷を負っていたし、勇者の力を長時間使った影響を調べる必要があったからだ。
 若葉の体に外傷はあったが、長く後を引くような重いものはないらしい。ただし、筋肉や関節の各所が炎症を起こし、一部に疲労骨折も起こっていたため、しばらく運動は控えなければならないと言われた。外面的には大きな負傷はないが、体の中身はそうではないらしい。
 中学生という年齢では、肉体は大人ほど出来上がっていないのだ。神樹の力で強化しているとはいえ、体の酷使は本来ならば良いことではない。
 若葉はベッドから身を起こす。
「何か食べますか?」
 ひなたは『勇者様へのお見舞い』として市民から贈られた果物の中から、りんごを手に取り、ナイフで皮を剥いていく。櫛形に切られたりんごに爪楊枝を挿して、若葉に差し出した。
 りんごを二、三個食べさせてもらった後、若葉はベッドから下りる。
「友奈の様子を見に行かないと」
「……そうですね」
 微かにためらうような間があって、ひなたは頷いた。
 歩こうとするとフラつく若葉の肩を、ひなたが支える。
 一歩進むごとに、若葉は体の内側が痛んだ。

 ひなたの肩を借りて、若葉は特別治療室の前にやってきた。
 杏と球子もそこにいた。球子は廊下に置かれた長椅子に腰かけ、うなだれている。杏はそんな球子の横に座り、どうすればいいのか迷うように視線を彷徨[ルビ:さまよ]わせていた。
「あ、若葉さん」
 杏は若葉がやってきたことに気づき、声をかける。
「友奈の様子は……どうだ?」
 重い口調の若葉の問いに、杏は目を伏せて首を横に振った。
「……まだ意識が戻りません」
「そうか……」
 ガラス窓越しに、治療室の中でベッドに横たわる友奈の姿が見える。包帯とチューブに巻かれた姿が痛々しかった。
「大丈夫ですよ……この病院には、最良の設備と医師が揃っています。検査でも、命に別状はないということでしたから」
 そう言うひなたの口調はどこか重い。
 いつも騒がしい球子も、今は何も言えないでいる。
 治療室の前に残された四人は、みんな何を話せばいいのか迷うように言葉に詰まっていた。
 無言の時間がどれほど過ぎただろうか。
 点滴スタンドを押しながら、千景が姿を現した。
 千景は口をつぐんだまま若葉の横を通り過ぎ、ガラス窓の向こうの友奈の姿を見る。そして悔しげに唇を噛み締めた。
「どうして……こんなことに……」
 自分の無力さを嘆くように。
 この世界を呪うように。
 千景はつぶやいた。
 そして若葉に視線を向ける。泣いているのか、寝不足なのか、千景の目は赤くなっていた。
「これが……あなたの引き起こした結果よ……」
 若葉は無言で千景の責めを受ける。友奈がここまでの傷を負った責任を、若葉も自覚していた。
「なぜこんなことになったのか……あなたは分かっているの……?」
「分かっている。私の突出と無策がすべての原因だ……」
 暴走とも言える単独行動。それがこの結果をもたらした。
「違う……!」
 千景は絞り出すように叫んだ。
「やっぱりあなたは分かっていない……! 一番の問題は、戦う理由なのよ……!」
「戦う、理由……?」
 彼女の言葉の意味が、若葉には分からない。
「あなたはいつも、バーテックスへの復讐のためだけに戦っている……! だから……怒りで我を忘れてしまう……! 自分が周りの人間を危険に晒しても、気づきさえしない!!」
「…………」
 千景の言葉が病院の廊下に響き渡る。
 球子にもその声は聞こえているだろうが、何も言わず俯いたままだった。彼女も今は、若葉を擁護することはできないのだろう。
「あなたに……私たちのリーダーとしての資格なんて、ない……! あなたが戦うことで、友奈さんは傷ついた……きっとこれからも、同じことが起こる! だったら……もう――」
「言い過ぎです!」
 千景の声を止めたのは杏だった。

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