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第19話 根絶(後編)

●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●● ●● ●●●●●●●● 勇者御記 神世紀元年一月 乃木若葉記


「はあああああっ!!」
 大天狗の力を身に宿した若葉は、鬼気迫る勢いで戦い続けた。若葉の周りを囲むのは、通常個体のバーテックスたち、そして三体の大型バーテックス――体が幾つもの節に分かれたもの、四本の角を持つもの、そして巨大な二つの水泡を従えたものの三体だ。
 切り札中の切り札を使った若葉にとって、通常個体たちはもはや敵ではない。しかし、大型個体は話が別だ。
 若葉を攻撃している三体とは別の、もう三体の大型個体が神樹の方へ向かってしまった。それらは友奈に任せるしかない。これまで共に戦ってきた仲間を、若葉は信じる。
「ぐ、げほっ……!!」
 若葉は苦痛に顔を歪め、吐血する。翼によって高速で空中を移動していく若葉だが、その戦い方は彼女の体に大きな負担をかけていた。高速飛行によって生じた莫大な重力加速度が、内臓や脳にダメージを与える。ただ戦っているだけで、若葉の体は刻一刻と傷ついていく。
 だが、彼女は一瞬も休むことなく戦い続けた。バーテックスとの戦いは、時間との勝負でもある。バーテックスが結界内にいる時間が長引けば、樹海が腐食し、四国に被害が出るからだ。
 若葉は体に節を持つ大型バーテックスを、一瞬にして五回斬りつけた。しかし、敵は分断された部分から体を再生させ、六体の同じ大型バーテックスとなる。
 六体は一斉に、全方位から若葉に襲いかかってきた。若葉は飛翔して攻撃を避けながら、敵を観察する。以前、似た性質を持つ進化体と戦っていたお陰で、冷静に対処することができた。よく見れば、分かれた六体のうち一体だけが、他と異なる動きをしている。そして他の五体は、若葉を攻撃しながらも、異なる動きをする一体を守っている。恐らく、その一体が司令塔なのだ。
「……ここだっ!!」
 若葉はそれを一刀両断した。司令塔を失った他の五体は再生能力をなくしたのか、若葉が各個撃破で斬っていくと、分裂することなく消滅する。
 しかし最後の一体を斬ろうとした時、彼女は巨大な水泡の中に囚われた。
「……!?」
 二つの水泡を従えたバーテックスの攻撃だ。若葉は翼を動かし、水泡から脱出しようとする。しかし四本の角を持つ大型バーテックスが、若葉を囚えた巨大水泡の中に角を突き刺した。次の瞬間、角が小刻みに振動し始める。
「……がぼっ!?」
 角の振動によって水が凄まじい速さでかき混ぜられ、翼をどれほど動かしても水泡から脱出することができない。
 呼吸できない状態が続き、若葉の体内の酸素が減少していく。脳が酸欠に陥り、思考が霞む。
(く……っ!)
 水泡の中から、壁を越えてまた新たな大型バーテックス――巨大な口と、そこから生えた巨大な矢を持つ個体――がやってくるのが見える。
 若葉の脳裏に、かつて化け物どもによって殺された人々の姿と、破壊された街の姿が浮かんだ。そして、無惨に殺された球子、杏、千景の死体も。憎悪と怒りで、吐き気を催す。
「あああああああああああっっっ!!」
 ――殺してやる。
 貴様ら化け物は一匹残らず殲滅する。報いを受けさせる。どんな手を使っても、必ず殺し尽くす。
 だが、どれほど若葉の怒りが高まろうと、水泡を抜け出す力にはならない。
 やがて限界が訪れ、若葉の意識が消えていく……

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