STORY | あらすじと、各話紹介

第12話 忘種

●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●   勇者御記 ●●●●●●●●●●●●


『勇者様と巫女様による調査の結果、諏訪地域の無事が確認されました。現在大社は、諏訪の避難民へ物資を輸送する方法などを検討しています。また、諏訪以外の地域でも人類が生存している可能性が高いと見られ――』
 若葉たちは食堂で、テーブルに置かれた携帯テレビから流れるニュースを聞いていた。
 調査遠征から四国へ帰還して、今日で三日目。今は昼食時間で、みんなでうどんを食べているところだ。
 この三日間、テレビや新聞などの報道機関は、調査遠征によってもたらされた『よい報告』を流し続けている。
「相変わらず嘘ばっかりだ。せっかくのうどんが不味くなる」
 不機嫌そうに言いながら、球子はテーブルに箸を置いた。
 球子の言う通り、四国に流れているニュースは大社によって歪曲されたものだ。諏訪は無事だった、四国の外にも人類は生存している、バーテックスは減少している、人類は国土を取り戻すことができる……四国の人々が喜びそうなものばかり。若葉たちが四国の外へ出て目にした事実とは、まったく異なっている。
「人々の士気を下げないために、情報を操作する……戦争なんかではよくあることですけど……」
 杏は暗い口調でつぶやく。
(大社のやり方は、戦略的に間違ってはいないだろう……だが……)
 若葉はどうにも不吉さを感じる。人々に嘘の情報を流し、無理矢理に明るい空気を作る――歴史上、そのやり方を取った者は最終的に負けてしまうことが多いではないか。若葉には、負け戦の戦法に思えて仕方がない。
「みんな、うどんが伸びちゃうよ、ニュースばっかり見てたら! よ〜し、伸びるくらいだったら、私がタマちゃんの肉うどんを食べる!」
 友奈が球子のどんぶりに箸を伸ばし、素早く一口食べてしまった。
「あっ! 友奈っ、お前〜! 肉まで食べやがったなっ!」
「残すくらいだったら、食べてあげた方がいいかなって」
「ちゃんと食べるつもりだったんだっ! こうなったら、友奈のうどんのキツネをいただくっ!」
「ああー! 一枚しか入ってないのにー!」
 うどんをめぐって争いを繰り広げる友奈と球子。
「もう、タマっち先輩、子供みたいなケンカしないでください」
「むぅ……」
 杏に叱られ、球子はおとなしくなる。
「友奈さんもお行儀悪いですよ」
「はぁい」
 一方、友奈もひなたに注意され、恥ずかしそうに返事をする。
 仲間たちの様子を見ながら、若葉は思わず苦笑する。さっきまでの暗い空気は、いつの間にか消えていた。
 友奈はみんなを見回し、明るい口調で言う。
「あのさ! 大社の人たちが流してるニュースは、今は嘘だけど、私たちが本当にすればいいんだよ。バーテックスを全部やっつけて、世界を取り戻して!」
「ああ、友奈の言う通りだ」
 若葉は頷き、携帯テレビの電源を消した。これ以上聞いていても意味がない。だが、このニュースで流されている虚偽の情報は、人々の願いそのものには違いない。それを実現することが勇者の勤めだ。
「……ごちそうさま……」
 千景は食べ終わったどんぶりの横に箸を置き、テーブルを立った。彼女はずっと会話に加わらず、無言でうどんを食べていた。
 食器を片付け、千景は誰とも目を合わさず、食堂を出て行く。
 遠征から帰った後、彼女は以前よりも口数が減った。代わりに険しい表情を浮かべていることが多くなり、話しかけるのも躊躇ってしまう雰囲気をまとっている。
「そういや、タマも用事あるんだった」
 球子もテーブルを立つ。
「あんず、午後の授業、欠席するって先生に言っておいてくれっ!」
「え? うん、いいけど……」
「サボりじゃないからなっ」
 急いで食器を片付け、球子は食堂から出て行く。
 杏は気がかりそうな視線で、去っていく球子の後ろ姿を見つめていた。

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