STORY | あらすじと、各話紹介

2話 みのわぎん


三ノ輪銀の朝は、場合によっては早い。
産まれたばかりの、弟の世話があるのだ。
「おい、お前は年が離れていても、この銀様の弟だろう」
銀は、赤ん坊の目を見ながら、語りかけた。
「ウゥ……う……」
「だから泣くなって。泣いていいのは、母ちゃんに預けたお年玉が、帰ってこないと悟った時だけだゾ」
楽しそうに、おどけて言ってみせる。
「うぇぇ……ぐすっ」
「あぁ、ぐずり泣きがはじまってしまった……ミルクやオシメじゃないだろうし……」
赤ん坊は特に不快なことがない時でも、ぐずぐずとくすぶるように泣いたりする時がある。
彼女はそれをよく知っていた。
「まずは膝にのせてっと」
ガラガラと鳴るおもちゃを握らせて、鼻歌を口ずさむ。
それだけで、弟はゴキゲンになるのだ。
慣れたものだった。
「おー泣きやんだ。エライぞ、マイブラザ」
泣き止むと、褒めてあげる。
すると、赤ん坊はパァッと嬉しそうに笑う。
「甘えん坊な弟だよな。大きくなったら、舎弟にしてコキ使おう、ニヒヒ」
愛くるしい弟の世話をしていると、いつの間にか時間が経過していた。
「へうっ。まず〜い、遅刻遅刻!!」
彼女は慌ただしく学校へ向かった。

須美達が通学する神樹館では教育方針として、
四年生を越えれば買い食いが許可されている。
十歳を越えれば、お金の使い方を知っておくのも勉強ということだ。
子供達のモラルが高い神樹館ならではの、自由な校風で、生徒達は歓迎している。
というわけで、須美、園子、銀達六年生は、巨大ショッピングモール・イネス一階のフードコートで、堂々とおやつを食べていた。
先日、大橋に襲来してきた敵を退けた、祝勝会というわけだ。
「どう、どう? ここのジェラート、めっさ美味しいでしょ! イネスマニアのアタシ、
イチオシだからね」
銀が、キラキラと瞳を輝かせ熱く語っている。



「最高だよ、最高だよミノさん、クレープもいいけど、ジェラートも、こんなにいいモノだったんだね〜」
園子は目に涙を浮かべながら、ジェラートを頬張っていた。
「あはは、てかなーんで少し泣いちゃってるの、乃木さんってば」
「私ね、お母さんとデパート行った時にね、食べたクレープが美味しかったから、それ以上に美味しいおやつはないって思ってたから、新発見なんだよね〜。嬉し泣きだよ〜」
「ダチとかと来た時に、食べたりしなかった?」
「私、あまり友達いないから〜……。あっ、でもこの前、わっしーと一緒に来たよ! 声をかけてくれたんだ。ね〜、わっしー」
「……」
須美は、難しい顔をして、ジェラートとにらめっこしていた。
「鷲尾さんは、なんでジェラートにガンつけて固まってんだろね?」
「わっしーにはジェラート合わなかった〜?」
「合わないどころか……宇治金時味のジェラートが……とても美味しくて……」
神妙な面持ちで須美は答えた。
「イェーイ。気に入ってくれたなら嬉しいね」
「それなのに、なんで難しい顔してるの〜?」
「私は、おやつは和菓子か、せいぜい、ところてん派だったから。それがこの味…わずかに揺らいだ私の信念が、情けなくて…」
須美はカタカナがつくものが、苦手だった。
「なんだかわっしーが難しい事を言ってる」
「ウマかったなら、それでいーじゃんね?」
「そうだよ〜。はふぅ、しあわせ……メロン味大正解〜」
「そ、そうね。確かに考え方の固さは実戦において、命取りになるかもしれない。素直に美味しく食べるわ」
二人に言われて、須美はジェラートを大人しく頬張りはじめた。
「この、ほろ苦抹茶とあんこの甘さが織り成す、調和が絶妙だわ……うん、うん……」
年相応の笑顔を浮かべ、口を動かし続ける。
「ふふ、なんだか鷲尾さんって面白っ!」
「ね〜。もうちょっと怖い人かと思ってた〜」
怖い人とは失礼な、真面目なだけだ、と須美は思ったが、ジェラートが美味しかったのでひとまず食べ続けた。
「なんだか、わっしーの食べっぷりを見たら宇治金時味も美味しそう……」
物欲しそうな目を、須美に向ける園子。
「一口もらえばいーじゃん。鷲尾さん、めぐんであげなよ♪」
銀は、けろっとそんな事を言った。
「え、ええと〜、こういうの、初めてで、緊張する所でもあるけど、憧れでもあるので、ここはひとつお言葉に甘えて…頂きます〜っ」



一方的に言って、園子はあーんと口をあけた。
(……!?)

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