STORY | あらすじと、各話紹介

7話 やくそく


少女達は、滝にうたれて身を清めていた。
神樹のすぐ近くを流れる神聖な滝には、大赦の中でも重要な役職の者でしか入れない。
「ひゃあぁ! 冷たい冷たい〜」
「そのっち、落ち着いて」
「え、なになに〜? 水の音で聞こえない」
「神樹様にお会いできるのだから、精神を研ぎ澄ませるのよ、そのっち」
「うん。まだ暑い時期で良かったね〜。冬に滝にうたれるのだけは、勘弁だよ〜」
「私は構わないけどね、毎日朝に冷水を浴びているから」
「うわぁ、大人びてると思ったけど、それはもう修行僧の領域だよ、わっしー」
「そのっちも是非、毎朝やろう。心身が引き締まるわ」
「ま、前向きに検討を重ねておくよ〜」

神世紀298年、秋。
須美と園子が使う勇者システムが、強力かつ新しいものにアップグレードしたため、
二人は勇者として、神樹に“御挨拶”をすることになった。
鷲尾家と乃木家は大赦の中でも格式が高く、有事の際には神樹との接触が
特別に許されている。

須美と園子が、神樹と向かい合う。
樹海化した時には巨大になっていた神樹だが平常時は、あそこまで大きいものではない。
「……」
少女達は、神樹がまとっている荘厳な雰囲気に圧倒されていた。
木ゆえに、何か言葉を発するわけでもない。
ただそこに在るだけで、思わず膝をつくほどの存在感だった。
新世紀の今では、神樹が全ての恵みである。
神樹がいるから、その根が全土に行き届いているから、壁に囲まれた世界でも、
作物は実りをもたらし、魚は海を泳ぎ回っていられる。
この世界は、神樹ぬきには成り立たない。
だからこそ、人は今を神世紀と名付けたのだ。
(人類を世界中に蔓延する死のウィルスから守るために、
いくつもの土着の神様があわさって、それで神樹様になって
……四国を壁で覆い、結界を張って……)
西暦の終わりと新世紀の始まり。
須美は教わった神樹誕生の神話を思い出していた。
マイペースな園子も、この時ばかりはガチガチに緊張している。
二人は巫女の許しを得て、神樹に触れてみた。

神樹に触れるまで近づくのは勇者達にとって今回が初めてだった。
「神樹様って、少し温かいんだねわっしー」
園子は神樹に触れて落ち着きを取り戻してた。
畏れはあるが、ぬくもりを感じられる。
「……」
須美は眉間に皺を寄せて神樹に触れていた。
「……どうしたのわっしー? 大丈夫?」
相棒の異変に気がつき、園子が声をかける。
「……何か私の頭の中に、流れ込んでくるような……う、く……これは何なの……?」
「え……? 流れ込むって……? まさか、神樹様とお話できてるの!?」
「分からな……い……」
須美の脳裏には無限に拡がる空が見えた。
その時、須美の意識は、すうっと遠くなっていった。

目が覚める。
「……ここは? 私の家?」
「あっ、わっしー目が覚めた! 良かった」
「そのっち」
「体の具合はどう〜? 気分とか」
「ん……」
立ち上がり、ぐっ、と体を動かしてみる。
何も異常はないようだ。
「大丈夫ね。お腹が空いてるぐらい」
「ふぅ〜よかったぁ〜。心配で心配で、隣に付き添って寝てたんだよ〜」
「寝てたのね……全然いいけど」
「あのね。わっしーは神樹様に触れていたら気絶しちゃったんだよ」
「えぇ……頭に何かが流れ込んできて……。星が数個ふってくるような、
そんなイメージが……そしたらクラッとしてきて」
「星? お空の星?」
須美が頷く。
「それは、神託ね鷲尾さん」
部屋の襖が開くと、担任の教師が立っていた。
「先生、わざわざ家まで来て頂いたんですか。ご心配をおかけして……」
「鷲尾さんは、勇者になるだけじゃなくて、神樹様のお告げが聞ける“神樹様の巫女”
の資質も極めて高いということね」
「私が、巫女……」
「うわぁ、わっしーすごすぎ! この総合力の高さ、旧世紀の明智光秀超えてるよ〜」
「……誰だか知ってるの?」
「えへへ、ただなんとなく〜」
「ごほん。鷲尾の直系ならともかく、これは本当に凄いわ、でも」
「でも?」
「内容が大変な事を示しているわ。鷲尾さんは天から星が降ってきた
イメージを見たのね? しかも降ってくる星は一つではなく、いくつも……!」
「は、はい」
普段は見せない、担任教師の緊迫した様子に、須美はぞくりとした。
「星はどういう風に落ちていった? 遠くとか、近くとか」
「凄い目の前まで来るような、怖い感じで」
「それはね、近日中に敵の襲来があることを暗示している、緊急メッセージよ」
「!!」

続きは電撃G‘s magazine12月号(10月30日発売)にて掲載!