STORY | あらすじと、各話紹介

5話 さようなら


ある初夏の日のこと。
「ほーら、どんどん引っ張るゾ園子」
「わ〜、はやいはやーい!」
銀に浮き輪をぐいぐい引っ張られて、園子がはしゃいでいた。
勇者三人は現在、大赦が所有するプールに遊びにきている。
(貸し切り状態)
勇者たるもの、基礎体力の向上は必須という銀の意見を採用
してのことだった。
「おい須美ー。お前いつまで準備体操してるんだよ」
銀が、プールサイドで飛び跳ねている須美に声をかける。
「そのっち達がすぐに入りすぎなのよ。
銀なんて準備体操無しで入るとか、信じられない」
須美が、ぐっ、ぐっと屈伸する。
「水の事故って怖いんだから。ちゃんとしないと。心臓がびっくりするわよ」
「フ〜ム。見て、園子。やっぱり須美は……小学生にあるまじき体をしていると思わんか」
「羨ましい話だね〜。果物屋さんみたい〜」
「ちょっと、どこを見ているの二人とも!」
「親父! その桃くれ!」
「銀、うるさい!」
須美が顔を紅くしながら、入水する。
「……冷たくて気持ちいいわね……」
「ふと思ったんだけど。もし今、敵が来たら
アタシ達、水着で出撃するわけ?」
「あ〜そうなるんじゃないのかな〜」
「倒されたら情けないな……気をつけような」
「水といえば、銀。あなたいきなりバーテックスの水をがぶ飲みしたけど、
その後、本当になんともないの?」
「あぁ。今思うとクセになる味だったなぁ。
また飲んでみてもいいかも、フフフ」
「常習性のある水なのかしら……にしても丈夫ね、何よりだわ」
「丈夫。それが、とりえさ!」
銀が、ぐっと力こぶを作る。
「でも長時間の勉強だけは勘弁な!」
「短時間でも集中力続かないでしょ銀は」
「ふぁーあ〜……眠くなってきちゃったよ」
園子はあくびをしながら、再びぷかぷかと浮き輪にはさまって
プールを漂っていた。
「あ、何かに似ていると思ったらクラゲだ」
「そのっちの前世かもしれないわね、クラゲ」
「でもクラゲには毒があるんだよ〜、痺れるし痛いよ〜
私、昔、刺されたもん〜」
「それは大変だったわね、そのっち」
「泳いでたら、ブスリとやられたんか?」
「ううん、浜に打ち上げられたクラゲに刺されたの〜」
「は?」
「お散歩している時、砂浜でクラゲがへにゃ〜ってなっててね、
ぷにぷにしてるかな〜と思って触ったら、ビリっときたんだよ〜」
「そ、そうか大変だな、園子も」
「……バーテックスには興味本位で触らないようにね」
「よし須美。いっちょ競泳しようじゃないか」
「唐突ね。いいわよ銀。そのための準備体操」
「お〜恒例の対決だ〜」
「お前の得意な泳ぎって何? お互い一致してるもので、競おう。
私バタフライ」
「私は古式泳法が得意よ」
「コシ……何?」
「古式泳法。他には平泳ぎと背泳ぎかしら」
「クロールは? 速いぞー」
「あまり好きでは無いの」
「バタフライは? 平泳ぎより燃費いいぞ」
「あまり好きでは無いの」
「犬かきは?」
「あぁ、それは割と好きよ」
「須美の好みが時々分からん」
「私も犬かき得意だよ〜見る見る?」
「あぁ、なんか想像できるな園子の泳ぎ」
「ほのぼのしてそうね」
「いくよ〜え〜い」
ちゃぱぱぱぱぱぱぱぱ!!!!!
「意外と速ッ!!」
「やはり侮れないわね。そのっち」
「脱力しちゃった。普通に泳ぎましょう銀」
「せやな」

プールをあがると、三人はうどん屋へ。
須美達の土地は、うどん屋の数がとにかく豊富なのだ。
小学生だけでも歓迎してくれる店は多い。
また値段も200円付近なので財布に優しい。
「しょうゆかけうどんにしようっと〜」
「アタシは梅干うどんだな」
「きつねうどんで」
三人それぞれのこだわりがあった。
慣れた感じで注文していく。
「さーて、作ってもらってる間、アタシ達はオーラをだしときましょ、
オイシイうどん、期待してるわってね」
「そうね。うどんを待っている時の基本だわ」
「うんうん〜」
三人は無言で、腕を組んで目をつぶり、
オーラを出しながら、うどんの到着を待った。



銀が、よく味わってうどんを食べている。
「くー。やっぱり美味しいなぁ……」
他の二人も、こくこくと頷いた。
「バーテックスもうどんを食べてみたらいいのにね〜
そしたら人類を滅ぼそうと思わなくなると思うんだ〜」
「うどん作戦、噂では一回やったみたいだぞ」
「えぇ!? 本当に〜?」
「大赦の人が冗談半分に話してたから、ネタかもしれないけどさ。
通常兵器がバーテックスに通じない段階で、じゃあ何なら効くんだってことで、
色々と試したらしいんだ」
「……その時に、うどん試したんだ〜」
「しかし、現状がこんな風なら、効果は無かったようね、うどん……」
「あぁ、うどん玉をぶつけてみたけど、敵さん見向きもしなかったらしい。
そもそも、あいつら食事するか謎だけど」
「う、うどんに見向きもしないなんて〜」
「ますます理解不能の生物たちね…だって、うどんよ?
 反応しないなんておかしいわちょっとぐらいは……」
須美達は、いたって真面目に話をしていた。
うどんは、それぐらい彼女達にとって、必要不可欠なものなのだ。

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