STORY | あらすじと、各話紹介

3話 のぎそのこ


乃木園子は、赤ん坊の頃からスローライフを貫いていた。
一人でぼーっと蟻の行進を眺めたりするのが楽しくて仕方が無い。
園子の両親は、そんな娘が少し心配だった。
祖父は園子に光るものがあると評するが、どうにも、そうは思えない。
そこである日、園子の両親はいたずらで、わざと幼い娘の前で、苦しんで倒れて見せた。
すると園子は、ぶわっと涙を溢れさせたが、すぐに人を呼び、いかに倒れたか、何秒経ったか症状を伝えて、あとは両親に、人を呼んだし大丈夫だからと力強く語り続けた。
そんな娘を見てからは以後、両親は園子がぼけーっとしていても何も言わなくなった。
「わ〜あの雲、わっしーの武器みたい〜」
今日も園子は、神樹館中庭の芝生で、風を浴びながら空を流れる雲の形を観察している。
昔と違うのは。
「おっ! そういわれりゃ、確かに」
「でしょ〜」
「こういう趣味が、そのっちの閃く力を育てているのね」
もう、一人では無いこと―。



初夏の風が、瀬戸内海から舞い込んでくる。
須美達は放課後、図書室に来ていた。
今日は銀を囲んで勉強会。
須美がつきっきりで教えている。
彼女達以外に、人はいなかった。
「なぁ、勉強より先にイネス行かないか?あそこのフードコートがアタシを呼んでる」
「駄目よ銀」
「須美ってば取り付く島もないっショ」
「何それ新キャラ? ほら集中して銀」
「はいはい鷲尾先生、分かりましたぁ」
銀は再び資料に目を落とす。
ちなみに園子といえば……。
「Zzz……うどんってなんであんなに白く
て美味しいんだろう〜……Zzz」
幸せな夢を見て、寝ていた。
「寝てる園子は放置でいいンすか鷲尾先生」
「彼女は、頭いいのよ……見えないけど」
「おのれ天才系少女め……耳元で害虫の名前をひたすら囁いて
ナイトメアを見せてくれようか、いひひ」
「よくそんな鬼のような発想ができるわね自分がされたらどう思うの」
「アタシ大丈夫だもん、Gとか」
「……やるじゃない」
「勇者ですから。須美はどう? G」
「……どうしてウィルスで絶滅してくれなかったのか……恨むばかりね」
「お、苦手なんだ。やだー可愛いー」
「話を逸らそうとしても駄目よ銀。さぁ歴史の勉強に戻りましょう。
では、この四国を囲う壁は、どうして存在するの?」
「アタシだってそこまでウマシカじゃないよ神樹様が、四国にいる人間を
結界で護って下さっているんだ」
「そうね。外の世界で蔓延している死のウィルスから、神樹様が護って下さっている」
「で、ここから先は教科書に載ってないけどウィルスの海から産まれたのが敵……。
その名もバーテックスだろ」
「ええ。神樹様を破壊せんと向こうからやってくる人類の天敵……
それを撃退するのが私達、勇者に選ばれた者のお役目」
「な、アタシだって理解しているだろ。完璧じゃないか。
さ、イネス行こう。イネス行かないとアタシ、落ち着かないんだよ」
巨大ショッピングモール・イネスは、もはや地域に住む人々にとって、
無くてはならないものにまで成長しているらしい。
「まだ勉強は終わりじゃ無いわ」
「あうぁ……」
「フフ。私、銀のそういう困り顔好きかも」
「きゃーなんか須美が怖い事言い始めた」
「歴史を知るという事はとても重要なのだから、最後まできっちりやるわよ。
で、バーテックスと戦うのは何故、私達勇者じゃないといけないのかしら?」
「もう教科書には書いてないことばかりじゃないか。通常の兵器が効かないからだろ。
だからこそ、神樹様にお話しして、神様の力をわけてもらった……勇者システムの誕生だ」
人間を捕食するわけでもなく、ただ殺すために攻撃を仕掛けてくる存在。
果ては神樹を壊して世界を滅亡させようとしている。
そんな悪魔に対抗するには神の力を借りるしかない。
「よかったここらへんは理解しているのね。
小テストで52点なんてとっていたから緊急の勉強会を開いたけど、大丈夫かも」
「さすがに勇者が自分に関係する歴史分からなかったら、パッパラパーだろ」
「そのっちは分からなそうだけど……」
「まぁ園子小テスト0点だったし」
ちなみに須美は92点だった。
「0点だったけど……答案用紙の記入方法が間違っていただけで、
正式なものに変換したら満点だったのよ? 凄いわ」
「オォーウ。まさに紙一重だね、色々と」
二人の視線を浴びている事を知らず、園子は
すやすやと寝息を立てている。
「ミノさん……だいすき……Zzz」
「ど、どんな夢見てるんだこやつ。ははは、
大好きとか言われると照れるな」
銀は照れていた。
「私は? ねぇそのっち私は?」
「須美揺らすな、気持ち良く寝てるだろ……って、もうすぐ訓練の時間か」
「ええ、しっかり鍛えましょう」
須美は、バーテックスとの戦闘で樹海を傷つけてしまった事が、
軽いトラウマになった。
自分の矢がはね返って、木々を貫いたのだ。
その結果どうなったか。
翌日、山奥で大きな土砂崩れがおこった。
不幸中の幸いで現場に人はいなかったが。
四国そのものが変化したともいえる樹海が、ダメージを受けると現実世界に戻った時、
何かしらの形で災厄となって現れる。
今回は被害軽めで済んでいるが、敵に派手に攻撃されれば大災害に繋がってしまう。
例え神樹の破壊を阻止しても、人類が被害を受けてしまえば、お役目として失格だ。
だからこそ、“向こう側”からやってくるバーテックスは大橋で撃退したい。
樹海に上陸されてしまっては、神樹まで距離があるとはいえ、被害が広がってしまう。

園子も起きて、大赦の訓練場に移動しようとした時、須美たちの担任教師がやってきた。
「そろそろ移動時間……って、分かってるみたいね。それじゃあ訓練場に行きましょうか」
「「「はい先生。宜しくお願いします」」」
三人は担任教師に、しっかりと挨拶をした。
訓練場は、大赦の大橋支部にある。
学校から徒歩で行ける距離だが、今日はギリギリまで勉強したいという
須美の意向を汲んで車で移動する事になった

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