STORY | あらすじと、各話紹介

第9話 光華

気づいたことがある。 やっこさんたち、どんどん進化していく。 まぁ、タマも進化していくから問題ない。 心技体。すべてにおいてタマは成長している。 数年後のタマのしなやかさに、 皆がぶっタマげると予言しておく。 でもさ、そもそもやっこさんたちが出てきたのって、 神樹様とは○○○○のせいだったりするのかな?  勇者御記 二〇一九年二月 土居球子記


 空を埋め尽くす無数の星々。
 星の数は、かつて誰も見たことがないほど多い。
 星々のいくつかは重なり合い、より輝きを増していく。
 それらは流星のように墜ちて。
 大地を蝕み、壊していく――
 ――それが、上里ひなたが神樹から受けた神託のすべて。
 意味するものはバーテックスの総攻撃。
 そしてもう一つ、大社が気にかけていることがあった。
 輝きを増していく星……それがバーテックスの進化体を意味するなら。
 彼らはどこまで強化されるのか。
 無作為に大型化しているだけなのか、それとも目指すべき『形』があるのか。

 そして予言された侵攻が起こったのは、神託から半月も経たない頃だった。

 樹海化によって一変した風景を見下ろしながら、勇者たちは丸亀城の城郭に立っていた。
 瀬戸内海の向こうから、バーテックスの群れが迫ってくるのが見える。
 若葉はスマホのマップを使い、侵入してきた敵の数を目算で確かめようとする。しかし、もはやマップ全体を埋め尽くすほどの量だったため不可能だった。千や二千といったレベルではないだろう。
「比喩ではなく、『無数』ということだな……」
 険しい表情で若葉がつぶやく。
 前回よりも厳しい戦いになる――分かっていたことだが、いざその状況を前にすると、不安を感じないわけはなかった。
 そんな若葉の額を、友奈が指でつついた。
「若葉ちゃん、眉間に皺が寄ってるよ! そんな恐い顔しなくても大丈夫。私たちは絶対に勝てるから」
「……そうだな」
 友奈の笑顔のお陰で、若葉は肩の力を抜くことができた。リーダーである自分が不安を露わにして、周りを不安にさせてどうする?
「そうだ、みんなでアレやろうよ!」
「アレ?」
 友奈の言葉に、球子が首を傾げる。
「みんなで肩を組んで丸くなって、『行くぞー!』ってやる奴!」
「円陣ですね。そういえば、勇者になる前の学校では、球技大会なんかでやってるチームがありました」
「……いいかもしれないな」
 若葉、友奈、球子、杏が肩を組んで円陣になった。
 千景はどうすべきか迷うように、視線を彷徨わせる。
「ほら、ぐんちゃんも!」
 友奈が千景に手を差し出した。
「……うん」
 千景は戸惑いながらその手を取った。友奈が彼女を円陣の中に引き入れる。
 そしてリーダーである若葉が声をあげた。
「四国以外にも人類が生き残っている可能性――希望は見つかった。希望がある以上、私たちは負けるわけにはいかない。この戦いも、必ず四国を守り抜くぞ! ファイト、」
「「「「「オーッ!!」」」」」
 勇者たち五人の声が合わさる。

 今回の総攻撃に当たり、杏が考えた作戦は、陣形[ルビ:フォーメーション]を使うことだった。勇者たち五人を決められた場所に配置し、役割を分担してバーテックスを迎撃するのだ。
 迎撃の中心とする場所は丸亀城。丸亀城周辺は樹海化中も、まだ完全には植物に覆われておらず、見通しが良いためだ。
 丸亀城の正面・東・西にそれぞれ一人ずつ勇者が立ち、その後方に杏が待機。残った一人は休憩しておく。前方の三人が襲撃してくるバーテックスを倒していき、討ち漏らした敵は遠距離攻撃に秀でた杏が仕留める。そして前方の三人の中で、疲労が見えてきた者は、休憩中の一人と交代する。
 敵の多さから、今回は戦いが長引くのは間違いない。しかし休憩を挟んだローテーションで戦えば、長期戦にも対応できる。
 また、切り札は疲労が激しいため、できる限り使わないことにする。

「丸亀城の正面には私が立つ」
 円陣を組んだ後、そう言ったのは若葉だった。
「正面はバーテックスの群れの中心だから、きっと一番大変だよ……いいの?」
 心配そうな友奈に、若葉は凛とした口調で言い切った。
「だからこそ、私がやらねばならない」
「……なぜ? より多くのバーテックスを……仕留めたいから……?」
 心の中を覗くように、ジッと千景が若葉を見つめる。
 若葉はそんな千景の視線に、薄く笑って返す。
「違う。リーダーとしての責務――そして何よりも、この四国の人々を守るためだ」
 彼女の答えを聞き、仲間たちは表情を緩めた。千景だけは、まだ少し納得していないようだったが。
「分かったよ。そんじゃ、正面は頼むぜ、リーダー!」
「無理はしないでね、若葉ちゃん!」
 球子と友奈が若葉の肩を叩く。
「では、正面は若葉さん、東側は友奈さん、西側はタマっち先輩。千景さんは一時待機。始めましょう!」
 指揮官役も兼ねる杏の声と同時に、少女たちはそれぞれ自分の配置に向かって跳躍した。

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